055229 ランダム
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臥雲県-ただ一つの森の中-

臥雲県-ただ一つの森の中-

第二十三説 後編

「さて、おれからいくかな。」
左近がまだ遠くから剣を振り下ろした。
「竜巻を切った、おれの風切は、風を操る。」
目を開けた幽海を襲ったのは斬撃に似た、かまいたち。かまいたちが幽海の左腕を襲った。
「うっ・・・まだまだ!」『ちっ・・・まだだ!』
かまいたちが襲った左腕からは血が出ているものの、たいした怪我ではなく、そのまま3人の元へ走り始める。それからも、幽海には何度もかまいたちが襲ったが、走り続ける。3人に近づくたびに生傷が少しずつ増えていく。
「全然、ダメやないかい。ったく・・・。」
次に中根が前に出た。その中根に対してとりあえず、走ってきた勢いで突きを放つ。この攻撃は相手の実力を計るための攻撃。その突きを中根は普通に避け、水切で斬りかかった。それを幽海はなんとか《狼蜂》で受ける。
「『くっ・・・』」
重い一撃。そして、中根は攻撃を受けたのを確認すると、水切を幽海の踏ん張る右足に触れさせた。
「海を切った、この水切は、大気中の水を司る。そして、凍らせることもたやすい。」
水切に触れている部分から幽海の足は凍り始めていく。
「うああ!!」
『幽海!離れろ!!』
急いで、中根から離れる。
「無駄や。大気中の水を司る、言うたやろ。」
水切で空を斬った。すると、一瞬で氷の刃ができ、それが幽海を襲う。その氷を《狼蜂》を手の中で回し、弾いた。そして、すぐに構えなおして反撃に出る。その時に足でピチャという音がきこえた。不思議に思い、足元を見る。
「『・・・水?・・・!!』」
水を確認して、中根を見る。中根は水切を床に刺している。どうやらそこから水が溢れてきているようだ。
「はぁぁぁっ!!」
中根に気を取られていると、左近が幽海に飛んで上から突っ込んでくる。しかし、その攻撃は単調で不意打ちと言えども簡単に避けられた。左近は雷切をそのままの勢いで床に刺してしまう。そして、左近に隙ができる。
「『今だ!!』」
こんなチャンス二度とないというように、背を向き、未だに床に雷切を刺している左近に攻撃を仕掛ける。だが、
「『う・・・わぁぁああぁぁぁあぁ!!!』」
雷切に触れてないはずなのに、身体に電撃が走った。
「水は電気を通しやすいんだぜ?」
中根が出した水を利用して、電撃を間接的に幽海に流していた。中根と左近は同時に床から剣を抜くと、幽海はその場に倒れこんだ。身体が焦げ臭い。
「おれら三剣に勝てるわけないよなぁ?」
「「・・・」」
「無視すんな!!仲間違うんかい!!」
『はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・幽海!大丈夫か!?』
幽海と雪はシンクロ中、幽海に与えられたダメージもシンクロする。そのため、雪もかなりのダメージ。
『あいつら、かなり、てか、化け物かってくらい強ぇ・・・。』
「どうしようか、セッちゃんも策浮かんでないみたいだけど。」
「ああ。正直、こんなに差があるとは思ってなかったしな・・・。」
「もう、終わりか?」
中根を中心に右に右近、左に左近、いつものスタイルに、いつの間にか戻っていた。幽海はなんの策も出ないまま、《狼蜂》に体重を預けながら、なんとか立ち上がる。
「うぅぅあああ!!!っあぁ!っ!」「あ・・・ああ・・・ああぁぁぁ!!!」
誰かの叫び声が響いた。
「むらさん!?くう!?」『村雨!?猫無!?』
それは違う場で戦う、2人の苦痛の叫び声だった。
「おやおや~。この様子だと死んでしまうのではないでしょうかねぇ。」
左近がバカにしたように言う。
「そんなことない!!」
「うっわ、尖兎のとこ行ったやつ、悲惨やで。あいつは殺し好きやからなぁ。死んだも同然やな。」
「そんなことない・・・。」
「お~、無駄死に、無駄死に。」
「そんな・・・こト・・・ナ・・・イ・・・」
「「「!!?」」」
右近は風が騒ぐのを感じた。それは風切でもなだめられないほどのものだった。強風が3人を襲う。それだけじゃない、なにか体中を縛られているような感覚に落ちている。身動きが取れない。
「な、なにをした!!」
3人は取り巻く気が変わったこれの原因であろう幽海を見た。目が合う。すると、身体をなにかが通り抜けるような感覚に陥る。変な汗が溢れ出てきた。
「「「あ・・・ああ・・・」」」
殺気。ものすごい純粋な殺気。声にならない声をだし、右近はその場に座り込んだ。3人が見ている幽海の姿は、さっきまでのどこかやさしさ溢れる幽海ではなく、鬼。その鬼は3人をゆっくりと確認すると、不気味な笑みを浮かべ、残像を残して3人の目の前に現れる。まずは右近を見下す。《狼蜂》を振りかざし、笑みを浮かべると一気に振り下ろした。血が幽海の全身に飛び散る。口周りについた血を舐める。
「「てめぇ!よくも!」」
右近がやられた怒りによってようやく動けるようになった、中根と左近は同時に幽海に跳びかかった。幽海は《狼蜂》を手放し、雷切と水切を両手で受けとめる。幽海の手のひらからは血が吹き出しても、痛い顔1つしない。
「ちっ!凍れ!!」「痺れ死ね!!」
雷切の電撃で一瞬にして、幽海は全身丸こげになり、そしてすぐ、全身が凍る。これでもう、幽海は死んだ・・・はずだった。
「「!!??」」
ミシミシと音をあげ、氷がひび割れ始め、割れる。中の幽海は未だに不気味な笑みを浮かべている。
「なんだと!?」
声をあげた左近を睨む。蛇に睨まれた蛙のようにまた身動きが取れない。ゆっくりと《狼蜂》を拾い上げる。拾い上げると同時に左近の首がなくなっていた。
「うそ・・・やろ・・・。」
左近の首がなくなったのを確認した中根は宙に浮いていた。首元を刺されて、持ち上げられている。その中根を上に放り投げると、落ちてくる中根を数十回突いた。そして、3人はケルベロスへ戻る。持っていた剣もケルベロスに戻った。それぞれ首がないケルベロスを見て、幽海はこの世のものとは思えない笑い声をあげ、次なる獲物を求めて歩き出した。


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